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『日本一の男の魂』 喜国雅彦

『日本一の男の魂』にいう漫画をご存知だろうか? 今年、休刊したヤングサンデーに昨年の五月まで連載されていた傑作エロギャグ漫画である。

飲尿プレイがあったり、男が男にフェラしたりと、活字にするとかなり下品なことをやっているのだが、読んでみるとさほどドギつくないのは、恐らく著者の人間性だと思われる。フェティシズム中心のネタが多い。

この人は主にギャグ漫画を生業にしているのだが、多才なので『月光の囁き』という谷崎テイスト溢れる青春漫画を描いていたりもする。こちらもフェチ要素の強い作品だ。

さて、話を『日本一の男の魂』の方に戻そう。

この漫画の第八巻に収録されている『日本一の座布団男』という話がある。

どんな話かというと……

桜という女子高生が、偶然、松村君の顔を座布団替わりにしてしまう。ギャグ漫画なので「そんな偶然あるか!」というツッコミは置いといて、この松村君は本当に扁平な顔をしているのだ。

「顔に座ってごめん」と謝る桜ちゃんに松村君は照れ笑いを浮かべながら言うのだ。

「僕の顔でよかったら座ってくれていいよ。桜さんの座布団になら喜んでなるよ」と。

その後も二人の関係は続くが、常に松村君は桜ちゃんに座られている。

高校生活が終わりに近づいたある日、桜ちゃんはしみじみと松村君に語りかける。

「ありがとう。あなたの顔座布団のおかげで私の高校生活は楽しかったわ」

「僕もだよ」と松村君。

女子大の試験に臨む桜ちゃん。しかし、問題に集中できない。なぜならそこに松村君がいないから。

桜ちゃんが困っていると、ドアが開く。入ってきたのは松村君。走ってきたのだろう。呼吸が荒く、その顔は汗まみれだ。

「なんだ君は?」と尋ねる試験官に、「あそこの女子高生の座布団です」と言い放つ松村君。

遅くなってごめんと謝る松村君に桜ちゃんは尋ねる。

「あなたの試験はどうしたの? 今日でしょ」と。

俯きながら答える松村君。

「決めたんだ。僕はずっと桜さんの座布団として生きていくと」

試験官に座布団としての入室を許可された松村君。時間がないので、試験に集中する桜ちゃん。

時は流れて六十年後……

二人の老人が縁側で茶を飲んでいる。

「いい天気だな、ばあさん」

「本当ですね。おじいさん…」

おばあさんの顔は見えているが、手前にいるおじいさんの顔が確認できない。

でラストのページ。

「あの鳥はなんじゃろ?」と尋ねるおじいさんの顔は、吹き出しに隠れて依然、確認できない。

「えーと、あれはね――」と空を見上げるおばあさんの尻の下には、年老いた松村君の姿。学生服のままだ。

松村君は高校卒業後もずっと桜ちゃんの顔座布団として生き続けていたのだ。

この話を読んだ僕は、ギャグ漫画だというのも忘れ、胸が締め付けられるような切なさに襲われた。なんて悲しいんだ松村君。愛する人の傍にいられるのなら、例え顔座布団でもいいのかと。

近くて遠い距離感というのは本当に切ない。たまにもう少しで届くのではと錯覚してしまう事もあるだろう。でも届かないのだ。松村君がいくら頑張っても、桜ちゃんの恋人、夫には永遠になれないのだ。

尾崎豊の回帰線という二枚目のアルバムに『群集の中の猫』という名バラードがある。

その中に

『上手に笑っても、君の瞳に僕が映らないから』という歌詞がある。

これも泣けるほど切ない。相手に認識されていないというのは哀しい。

くしくもマンガに登場している松村君は全てのシーンで微笑んでいる。

僕が松村君に激しく共感したのは、これは自分ではないかと思ったからだ。

片思いの切なさは嫌になるほど知っている。

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コメント

山田君、松村君に座布団10枚やんなさいsign01(円楽Ver)

 「群集の中の猫」は尾崎豊の中で一番好きな曲ですね。

 喜国サンといったら、「BURRN!」に掲載されてるマンガ、あれ単行本にしてくんないかなァ・・・。

投稿: ゴルフカップ◆深さ2m | 2008年10月31日 (金) 18時56分

「群集の中の猫」は名曲ですよね。尾崎豊は最初の二枚がやはり傑出しています。回帰線のラスト三曲はどれも名曲ですね。
BURRN!のあの四コマは僕も好きでよく読んでました。

投稿: 管理人 | 2008年11月 1日 (土) 10時24分

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