『身から出た鯖』 中崎タツヤ
この前の金曜日、塾長宅で開かれた上映会に参加した。上映された映画は『ゴジラ』の記念すべき第一作目。僕は不条理な話が大好きなので、存在そのものが不条理極まりないゴジラは、これから作品を書く上で大いに参考になった。
その『ゴジラ』を見て、ふとある漫画を思い出した。それは僕が最も敬愛する漫画家、中崎タツヤの『身から出た鯖』第四巻に収録されている『神の日』という短編漫画。
まずゴジラのような怪獣が街へ向かっている絵が入る。そしてタイトル。コマが変わり、道端にいる猫をかわいがる少女に「そんなものに構うな」と注意する母親。はっとする二人。何かを見上げている。次の瞬間、無残にも二人は怪獣に踏み潰される。
次のコマは夫の母親に謝っている若い女性。どうやら嫁姑問題がこじれて、別居するという流れのようだ。姑の方は意外にも穏やか。「困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」と夫。「そうするよ」と微笑む姑。次のコマでズシーンという音とともに三人は踏み潰される。
この後、2ページに亘って、賄賂を贈ろうとしている政治家、イジメをしている女子高生とイジメられている女子高生、公園でイチャついているカップル、娘を肩車している父親(会話から父子家庭というのがわかる)、こちらに背中を向けて部屋で自慰をしている男などが次々と怪獣に踏み潰されていく。
興味深いのが、次のコマになるとあっという間に殺されるという表現だ。笑っていた人間が次の瞬間、屍になっている。当然だが怪獣には何の躊躇も温情もない。ただ踏み潰すだけ。それだけだ。
例えば原爆で亡くなった人は、それを予期できてない訳だから、投下される前は普通に生活していた訳だ。次の瞬間には跡形もなく消えている。それを考えるとリアルな描き方である。
そして最後のページ、怪獣が海へと帰っていく。
段々と小さくなっていく怪獣。
最後から2コマ目で怪獣が口にした
「オレって平等じゃん」
という台詞。これが堪らなくいい。
悪事を働いている人間も、政治家も、子猫も、部屋で陰部をいじくっている男性もすべて平等に殺される。
初めてこの漫画を読んだ僕は大笑いした。そしてたった4ページでこんな深みのある作品を作り出せる中崎タツヤにを一瞬のうちに尊敬してしまった。
これを完全に踏み潰される民衆の視点から描くと『クローバーフィールド』になるのだが、断然この『神の日』の方が質が高いと思う。
時に漫画というのは、お金をかけずとも物凄いものを作り出せる可能性があるというのを証明している。それは画力のある、なしに関わらない。中崎タツヤの絵は物凄く味があるが、上手い絵ではない。ただ見やすくて伝わりやすい絵ではある。
これを書いていて筒井康隆の『死にかた』という短編小説を思い出した。構成がこの『神の日』とよく似ている。
いきなりオフィスへやってきた鬼がそこにいる社員を金棒で次々と撲殺していく不条理な話。こちらは殺される側がなんとか助かろうと、様々なリアクションを取るのが面白い。危機的状況に陥った人間の滑稽さを上手に描いている。
どちらもお勧めなのでこの『身から出た鯖』と併せてお読みいただければ幸いである。
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