八時半の男
僕は朝のコンビニでバイトをしている。
大国町という土地柄なのでしかたないとは思うのだが、モンスターカスタマーなるものが何人かいる。
いきなり「タバコ」と言ってきて、銘柄をたずねるとぶち切れたりするのだが
その中の一人にコードネーム『ゴキブリ』がいる。
なんともひどい名前だが、僕が名付けたわけではない。店長だ。
店長いわく、雰囲気がゴキブリによく似ているからだそうだ。
まあ言われてみると、見た目も中身も実にゴキブリっぽい。
このゴキブリ、たいてい怒って店に入ってくる。怒りの理由は不明だが、何かに大して常に怒っている。
こっちが新聞を袋に入れようと思っているのにもかかわらず、レジ操作をしている段階で
「はよ、袋入れろや!」
とわめき散らす困ったちゃんなのである。
僕よりも、店長の方がゴキブリを嫌っている。マイルドセブン、10ミリのソフトをゴキブリが買っていくのだが、もしあれがマイセンなどではなく、売れ筋ではない商品なら、ゴキブリを来させないためにも、発注をやめていると豪語するぐらいである。
ゴキブリは毎朝、決まって八時半に現れる。
元巨人の宮田と同じく彼は八時半の男なのだ。
今日も八時半に現れたゴキブリは、何も買わずにトイレに直行した。
また怒鳴られるのかなと嫌な気持ちになっていると、トイレの方から声がした。
「おーい、紙ないやんけ、紙」
バックルームから店長が出てきた。
「どうしたの?」とたずねる店長に僕は経緯を説明した。
その間にも「紙くれ」コールは店内にこだましている。
「じゃあ、今あそこに入っているのは?」
とトイレを指差す店長に
「ゴキブリです」
と僕は答えた。
顎に手をやり、意味ありげに微笑む店長。
「もう少しあのままにしとこか。ほんなら、もうこうへんようなるかもしれへんし」
「いいんですか?」
「だってゴキブリやもん」
そう言い残すと店長はバックルームに消えた。よくわからなかったが、『だってゴキブリやもん』に妙に納得してしまった。
他のお客さんがいれば迷惑になるので、トイレットペーパーを持っていったのだが、出勤ラッシュも終わり店内には誰もいなかった。
僕は商品整理をしながら、ずっとトイレから聞こえてくるゴキブリの叫びを無視し続けた。
次の客が入ってきたのは五分以上経ってからだった。さすがにやばいと思ったので、トイレに紙を持っていくと
「なにしとるんじゃ。さっきから呼んでるやろ!」
と大声で怒鳴られた。一瞬、そのまま紙を渡さず、レジに戻ろうかと思ったがそれはやめておいた。
「申し訳ございません。レジが込んでおりまして」
という大嘘を口しながら、僕は心の中で舌を出していた。
もうちょっと遊んでやろうかと思った。
「本当にすいません」
「はよ、紙渡さんかい!」
僕は意地が悪い。わざと聞き返した。
「紙……ですか?」
「それを渡せ!」
「ああ、そうでした。そうでした。本当に申し訳ありません」
と言いながら、ようやく紙を渡した。
その後、レジに戻った僕に
「二度と来るか!」と言い放ち、ゴキブリは店を去っていった。
結局、店長の思惑通りになったのである。
天網恢恢、疎にして漏らさずを実感した一日であった。
ちなみにゴキブリは漏らしてたが……。
溜飲は下がったものの、後処理が大変であった。
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コメント
なんかもう、状況がありありと想像できてしまいましたw
難儀なお客と折り合いをつける事こそ、客商売で一番苦労する部分ですよね。御苦労様です。
投稿: モンシ | 2009年1月15日 (木) 20時33分
お互いあまり柄の良くないところで働いてるんで大変やね。早くプロなってバイトせんでもええように頑張りましょう!
投稿: 管理人 | 2009年1月15日 (木) 22時05分
地雷地帯に放り込んで、歩かせたい!
こんな奴は!!!
でも、また来る方に一票。
ゴキブリはしつこいですから。
投稿: 乳頭5cm◎ピンク色 | 2009年1月16日 (金) 02時39分
いやぁ~おもろいなあ。
ボクもまた絶対に来ると思いますよ(笑)。
地獄少女に頼むしかないですねぇ。
投稿: 落合 | 2009年1月16日 (金) 10時11分
乳頭5cm◎ピンク色さん>
落合先生>
お二方の予想通り、今朝もゴキブリさんはやってこられました。昨日のことは忘れたのか、いつもと変わらない感じで怒ってましたよ(笑)
投稿: 管理人 | 2009年1月16日 (金) 19時40分