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『箱舟はいっぱい』 藤子・F・不二雄 異色短編集3

今まで読んだ漫画の中で、最も衝撃を受けたもの。

それが『藤子・F・不二雄 異色短編集』のシリーズである。

ほとんど子ども向けの作品ばかりを描いてきたF先生が、大人向けに書いたのがこのシリーズ。まさに名作ぞろい。外れがまるでない。

最初のつかみ、後半に行くにつれての盛り上がり、そしてラストページでの裏切りなど、ストーリー作りの基本が詰まっている。

ここから先はネタばれになるが、僕が衝撃を受けた収録作を紹介する。

『箱舟はいっぱい』という異色短編集の3巻に収められた『イヤな イヤな イヤな奴』という話。

Hakobune 宇宙船で行われている、トランプの賭博シーンから話は始まる。服務規程で禁止されている船内賭博をやっている四人。一触即発の空気。長距離宇宙船に乗っているため、かなりストレスが溜まり関係がぎくしゃくしている。

そこへ遅れて入ってくる整備士のミズモリ。彼はちょっとカイ・シデンとかぶるのだが、いつもヘラヘラしていて、どこか人を小ばかにしている節がある。笑い方までが、人を苛立たせる。

他の船員たちは、賭博でミズモリに貸しを作っている。他のキャラクターは、感情の起伏が表れやすいので、ミズモリのキャラが浮き立って見える。

時間が進むにつれて、ますます関係が悪くなる船員たち。不思議な事に、もう少しで大喧嘩となると、どこからともなくミズモリが現れて、怒りの矛先を自分に向ける。

ある日、ミズモリが何の前触れもなく、船内賭博の事を本社へ通報したと告げる。怒り狂う船員たち。他にも、通信士の飼うアルタイル犬を食べたとか、船長のクロスワードパズルを解いてしまったとか(ここだけなんだかスケールが小さいが)、矢継ぎ早に告白するミズモリ。

憤怒した船員たちは、ミズモリを追いかけ回す。

「リンチは厳禁だぞ」

というミズモリを容赦なく殴打する船員たち。部屋の電気を消し姿をくらますミズモリ。

彼が向かった先は原子炉。制御弁に手をかけて、近づけばロケットを吹き飛ばすと脅しにかかるミズモリ。

仕方なく避難する一同だが、共通の敵を前にいつの間にか団結しており、不穏な空気はどこかへ行っている。

そのままの状態で、地球へ帰還する宇宙船。

ラストのページ。ニホン宙運トーキョー本社に出向いているミズモリ。

誰かから札束をもらっている。どうやら、何かの報酬のようである。

お金を渡しながら「収めてくれたまえ。いいかせぎだねえ」と言うお偉方に

「でもありません。からだを張っての命がけの仕事ですからね」と答えるミズモリ。

やはり、へらへら笑っている。

最後のコマで下記のような解説が入り、ミズモリの正体が明らかになる。

<にくまれ屋>

人間は共通の敵の前で、もっとも強く結束する。この習性に目をつけた宇宙時代のビジネス。

そう、もしミズモリが実在するのなら、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出られるほど、プロフェッショナルな男だったのだ。

久々にこの話を読んだ僕はある事を考えた。

日常生活で、ある一定の集団になると、いじられキャラというのが出てくる。

その定義を調べると

  • いじられて抵抗する
  • 恥ずかしがる
  • いじる隙が明確である
  • いじって痛々しくない
  • 反応が面白い
  • 反応する
  • 声を出す
  • ついついうかつなことを口にしてしまう
  • 可愛げがある
  • 自慢するべきことを恥じている
  • 間違った方向に優秀である
  • などらしい。『いじる』と『いじめる』は結構な類似が見られると思うのだが、一番の違いはやはり上から四つ目の“いじっても痛々しくない”だろう。

    こいつなら、耐えられると思えるから、安心してきつい言葉を口にできるのである。

    ということは、本格的な宇宙時代が到来した暁には、『にくまれ屋』ならぬ『いじられ屋』というビジネスが成立しそうな気がする。

    “いじられる”とは、愛されている事の証明なのかもしれない。

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    コメント

    個人的には、同じく短編のひとつ
    「コロリころげた木の根っこ」も
    大好きなネタです。

    投稿: まあ | 2009年5月29日 (金) 16時56分

    そして、ミズモリからアルタイル犬を預かったよ。
    キンダイチという坊やに返してあげてくれ、と言われてね。

    彼はまさにプロだ。

    投稿: ミズモリの上司 | 2009年5月29日 (金) 17時50分

    >まあさん

    コメントありがとうございます。「コロリころげた木の根っこ」もいいですね。大好きな作品です。ラストのコマで出てくる白目の奥さんの怖い事と言ったら……。あれは上手く女性を描いています。


    >ミズモリの上司さん

    最後のコマですね。
    それにしても、淀川から鴨川まで泳げる体力が羨ましい限りです。なぜそれだけ泳げるのに、肺が悪いのか不思議ですね。はい。

    投稿: 管理人 | 2009年5月29日 (金) 20時07分

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